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2008年7月25日 (金)

'93羽田にて

さて、当時は時々ANA富山支店から葉書の宛名書きの仕事を依頼され、
その報酬を富山ー東京間一往復分の優待券でもらっていた。
相変わらず貧乏だった森大衛にとってそれはとてもありがたい。


よく憶えていないが、5月頃のよく晴れた日だったと思う。
<世界芸術協議会大賞>を受賞した「龍翔鳳舞」を、
銀座のセントラル美術館に見に行った帰り、早めに羽田に着いた森大衛は
搭乗待合室のソファーで少しうとうとしていた。


5分も眠っていなかったと思うが、ふと我に返り目を覚ますと、
隣りに美輪明宏さんが微笑みながら座っていた。
あの金髪ヘアーに当時流行し始めたストレッチドレープのシルバーのドレス。
テレビのイメージそのままだ。


「うわっ」それが一番最初の正直な感想。


隣りの人を凝視するわけにもいかず、戸惑いながらうつむき加減に自分の
靴紐を見つめていたが、美輪さんがニコニコしていたのは判った。


「有名人がこんな至近距離にいる時ってどうすればいいんだろ?」
しかもそれが美輪さんであるからして緊張するのは当然だ。
「今日は良いお天気ですね。どちらまでですか?」とでも話しかければいいのか?
いや、そんな勇気はなかった。


勇気はなかったが、なぜか心の中で美輪さんに語り始めていた。
「僕は書道をやっていて、去年独立書展で特選を貰って、今年も頑張ったけど
また特選で…。でもその後、何気なく出品した展覧会で「日本象書大賞」ってのと
「世界芸術協議会大賞」ってのをもらって…。」
この約2年間の出来事を思い出しながら、無言で美輪さんに話しかけていた。


話しかけているうちに目が潤んできた。潤んできたのでまた寝たフリをしようと
瞼を閉じたらこぼれそうになったので、嘘のあくびをして頬づえをつく仕草で拭いた。


凛と背筋を伸ばして座っている美輪さんは菩薩のように思えた。
まぶしい黄色が寺院の金堂のように思えたといえばそうかもしれないが、
菩薩は男でもあり女でもある。


しばらくして二人同時に席を立ち、僕は富山便、美輪さんは広島便のゲートに向かった。
美輪さんはゲートに搭乗券を差し出す瞬間、一度振り返ってニコリと僕に微笑んで
ゲートの奥に消えていった。


つづく

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