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2008年7月28日 (月)

「廻」その後

大作部門の審査風景を出品者は見学できる。
10月頭の日曜日に会場である目黒の書道専門学校に向かった。


全国から120点ほどの応募があり、選ばれるのは7,8点。
残りの110点以上は日の目を見ることがない。
すべて準会員と会員のみであるからしてそのレベルは相当高い。
しかし選ばれた7,8点を見ることはあっても、残りの110点は見られない。
もちろん見学したからといって選ばれやすいわけではないが、
どんな作品が集まるのか見てみたい。


「見学者はお静かに!」
審査会場の入り口近くに並べられた椅子に30人ほどの見学者がいただろうか。
遅く着いた森大衛は部屋に入れず、廊下から入り口の壁に寄りかかって
審査風景を覗き込んでいた。


「はい、こちらの作品」

進行係以外は誰も一言も喋らない。7人の審査員も無言で挙手をするだけ。

「はい、何点!」

それはまるで裁判を傍聴しているかのようだ。


120点が一巡した後、ふたたび獲得点数ごとにふるいにかけられる。


遅れて会場に行った森大衛は一巡目に自分のがどうだったかを知らなかった。
自分の作品がふるい落とされる場面を見ずに済めばその方がマシ。


そう思って目の前に順番に広げられる作品と審査の結果を「なるほど」と
思いながら見ていたところ「廻」が登場した。
少字数部門の高得点獲得3作の中に残っていたのだ。


現代文体、仮名、臨書など、部門別に分けられて展示作品が決定する中、
少字数の審査は最後の最後に回されていた。

そして、一旦休憩を挟んで少字数部門は審査されることになった。


しかし休憩といっても、審査員が「あの作品はどう、この作品はどう」と
小声で話しているだけで、休息をとっているわけではない。


そして最後の挙手が始まった。


緊張で火照った顔で見つめる森大衛の前で「廻」に満票7人の手が挙がった。


ビックリした。いや、唖然とした…


「お疲れ様でした!」
運営係の人達が手早く120点の作品を返送用の宅配便の袋に詰め込み、
「見学された方は各自お持ち帰りください」との声がかかる。
見学者はそれぞれ自分の作品を持ち帰ってよい。
入選者は各自で業者に作品の額装を依頼することになっている。


「廻」が入った袋に手を伸ばし出て行こうとしたところ、
I先生に「おい君、それは入選作品だよ」と引き止められた。


「あのぉ、入選したんですけど…」


「そ、それは失礼しました…」


「いえいえ…」


その後、希望者は別室で審査員から各自の作品についての
批評を聞くことができる。
せっかくの機会なので森大衛は聞きに行くことにした。


「廻」を広げ、審査主任の上松一条先生に見せると
「これは入選作品じゃないか!」と僕の顔を見て驚いていた。
指導を仰ぐのはほとんど落選者らしい。
よく考えてみれがその通りだ。
しかし、初めてのことでよくわかっていなかった森大衛は、
「あのぉ、なぜこの作品が選ばれたのでしょうか?」と聞いた。


上松先生の答えは、

「入筆から最終画までの筆意の流れ、展開がよかった」

「そうなんですか…」

相変わらず呆然としている森大衛。


そうこうしているうちに、他の見学者や審査員や運営係の間で、
「あの作品は今年準会員に昇格したばかりのあの若いやつが書いたものだ。」
という情報が流れた。I先生が言ったらしい。


批評会が終り、専門学校を出て通りに出ようとしたところ、
遠くから「おーい、森くん!」と呼ぶ大きな声が聞こえた。
振り向くと貞政少登先生だった。


「作品、気を付けて持って帰るんだぞ!」

「はい、ありがとうございます!」


貞政先生との会話はそれが初めてだった。
あの夕暮れの光景は今でもしかっり目に焼き付いている。


つづく

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